大判例

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札幌高等裁判所 昭和26年(ナ)3号 判決

原告 角田睦

被告 北海道選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

(双方の申立)

原告は、昭和二十六年四月二十三日執行された幌別郡幌別町議会議員選挙における当選の効力に対し同村選挙管理委員会が同年五月二十二日になした決定に対する原告の訴願を棄却した同年十月八日附被告の裁決を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、被告は主文と同旨の判決を求めた。

(原告の陳述)

原告の陳述の要旨は次の通りである。

昭和二十六年四月二十三日に行われた幌別郡幌別町の議会議員の選挙に於て、原告及び倉賀野曠はともに候補者であつた。開票の結果、投票中に容易に判読し難い一票(以下甲票と称す)と片仮名でクロガネと書いた一票(以下乙票と記す)とがあつた。開票管理者は、開票立会人の意見を聴いて、乙票を倉賀野候補に対する有効投票とし、甲票は無効とする旨決定した。その結果原告と倉賀野候補の得数は同数となり、くじにより原告は当選者、倉賀野候補は落選と定まり同月二十五日に当選の告示があつた。

倉賀野曠は同年五月四日に幌別町選挙管理委員会に対し、前記の原告の当選の効力に関し異議の申立をしたところ、同委員会は前記の甲票を倉賀野候補に対する有効投票とみとめ、従つて同人の得票は原告の得票より一票多いものとし、原告の当選を無効とする旨の決定を同年五月二十二日になした。そこで原告は同年六月五日被告委員会に対し訴願を提起したところ、被告委員会は同年十月八日原告の訴願を棄却する旨の裁決をなし、原告は同月二十一日裁決書の交付を受けた。

前記甲票及び乙票は、次の理由により、いづれも無効である。従つて原告の得票は倉賀野候補の得票よりも一票多く、原告が当選者である。然るに原告の当選を無効とした幌別町選挙管理委員会の決定は違法であり、之に対する原告の訴願を棄却した被告委員会の裁決もまた違法であるから、その取消を求める。

(イ)  甲票の記載は何人の氏名を書いたものか不明であつて、公職選挙法第六十八条に公職の候補者の氏名を自書しないものと云うのに該当する。投票者の意思を推測するならば、上二段は書き損じとみとめるの外なく、下の三段はみやのと判断する可能性がある。ところが本件の選挙候補者中には宮野雄資があるから、甲票は前記法条に候補者の何人を記載したかを確認し難いものと云うのに該当する。

(ロ)  乙票のクロガネとの記載は倉賀野候補の氏名を記載したものとはみとめられない。類似の氏名を求めるなら倉賀野候補の他に本件選挙に立候補した黒沢武雄があり、結果乙票は候補者の何人を記載したかを確認し難いものである。

(被告の陳述)

被告は、甲票及び乙票を無効と云う原告の主張は否認するが、その他の原告主張の事実はみとめる。なお乙票にはクロガネと片仮名で記載されていること、本件選挙に於て宮野雄資及び黒沢武雄が立候補したことは相違ないとのべた。(各証拠省略)

三、理  由

先づ甲票について按ずるに、甲票であることに争のない甲第二号証の検証の結果と鑑定人金丸吉雄及び渡辺静夫の鑑定の結果によると、甲票の記載は明瞭を欠くものではあるが、平仮名の四字が記載されており、その筆勢は「くらがの」と書く意思が明確にあらわれている事実をみとむるに十分である。原告の主張する如く上段が書き損じであること、下の三字がみやのと判読される可能性のあることはみとめられない。従つて同票は倉賀野候補及び宮野候補のいづれを記載したかが明確でないものとは云えないから、甲票は無効ではない。証人藤平喜三郎、上田邦、田中謙一は甲票が開票手続終了の後に改ざんされているように証言するが、右の証言は証人大坂義衛の証言に徴して信用できない。

次に乙票につき按ずるに、クロガネは倉賀野候補の氏を正確に表示したものでないことは勿論であるが、倉賀野の音「くらがの」は発音上クロガネと誤つて発音され易い事実を考えると、右のクロガネの記載により投票者が倉賀野候補に投票する意思あることを確認するに足りる。之に反してクロガネがクロザワの書き損じとは字体上みとめられず、またクロザワをクロガネと誤つて発音する可能性も考えられないから、右の乙票は倉賀野、黒沢両候補の内いづれを記載したかを確認しがたいものではない。

以上の通り、甲、乙両票はいづれも倉賀野候補に対する有効な投票であるから、同候補と原告との得票関係につき争のない事実に徴して、昭和二十六年四月二十五日に告示された原告の当選は無効であると云わねばならない。そうして倉賀野候補が法定の期間内の同年五月四日に幌別町選挙管理委員会に異議の申立をしたことは争がないから、同委員会が原告の当選を無効と決定したのは正当である。従つてその決定に関し被告委員会に対し原告の為した訴願は理由がなく、これを棄却した本件の裁決は違法ではない。よつてその取消を求める原告の本訴請求は棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の如く判決する。

(裁判官 浅野英明 熊谷直之助 室谷慶一)

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